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大阪高等裁判所 昭和34年(く)74号 決定 1960年1月30日

少年 B(昭一七・六・二四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、

一、先ず所論は、本少年の本件各所為はNとの共謀の犯行でなく、同人に強制され、その命令により同人の窃盗の犯意に基く各犯行を幇助したものであつて従犯である、しかるに原決定が本少年の本件各所為を右Nの共同正犯と認定したのは、法令の違反及び重大な事実の誤認があると主張するのである。よつて記録を精査するのに、原決定が本少年の非行事実として、N又は同人及びYと共謀の上、昭和三四年九月一九日頃から同年一〇月一九日頃までの間二一回に亘つて他人所有の原動機付自転車及び軽自動車合計二一台を窃取したものであると認定したことはまことに所論のとおりである。しかしながら右事実はN、Yの司法巡査に対する各供述調書及び本少年の昭和三四年一〇月二三日付、同月二四日付、同月二五日付並びに同月二六日付の司法巡査に対する各供述調書によつて十分認定できるところであると共に、右各犯行の実行に際し、本少年は右N又は同人及びY(但しYについては原審認定の(二)の非行事実についてのみ)の各見張のもとに、いずれも自らその実行行為を担当したことが優に認められる。所論に鑑み記録を精査しても、本少年の審判廷における陳述を除き、本件各犯行に際し、Nが本少年にその犯行を強制したと認めるに足るなんらの資料も見当らない。よつて本少年を本件各窃盗の共同正犯と認定した原決定は正当であつて、重大な事実誤認ないし法令違反のかどは全くない。従つて論旨は理由がない。

二、次に所論は、原決定が本少年に対し、少年法第二四条第一項第三号に基いて少年院送致を命じたのは、保護の名において強制収容するものであり、少年に対する刑事事件でさえ長期と短期とを定めた不定期刑が科せられるのに、少年保護事件における審判による期間の定めのない不定期間の自由の拘束は、明らかに憲法第一一条により国民に与えられた基本的人権の侵害であり、かような少年院送致を認める少年法第二四条第一項第三号の規定は憲法に違反するものであるから、該規定に基いて少年院送致を命じた原決定は取り消さるべきものであると主張するのである。なるほど少年院法は在院者が逃走したときはこれを連れ戻し、紀律に違反すれば懲戒を行い得ることを認めるなど少年を強制収容するもので、その自由を拘束することは所論のとおりであり、一方憲法第一一条により保障された国民の基本的人権である身体の自由はこれを尊重しなければならないことは勿論である。しかしながら、少年院収容の目的は少年及び公共の福祉のため罪を犯し又は将来罪を犯す虞のあるなどいわゆる非行ある少年を社会生活に適応させるため、その自覚に訴え紀律ある生活のもとに矯正教育を授けるにあるものであつて、少年院法第一一条は在院期間について二十歳に達したときは原則として退院させなければならないと規定しているばかりでなく、他面法律の定める妥当な手続により身体の自由を拘束し得ることは憲法第三一条により認められるところであるから家庭裁判所が少年の矯正教育のため少年院に送致し、少年の身体の自由を拘束する措置をなし得ることを定めている少年法の右規定が憲法第一一条に違反するものとはいえない。従つて該規定の憲法違反を前提とする所論は理由がない。

三、更に所論は(1)本少年は父が教育に熱心で高等学校に進学したが、たまたま好奇心から万引等をして保護観察に付せられ、父母からも厳重な注意を受け、○○商業高等学校に転校し通学していたところ、制服を着用していなかつたことから同校教師から厳しい折檻を受けたので、登校を嫌い、一方登校しなければ父母から叱責されるのを怖れて家出するに至つたのであり、かような場合、本少年が何故に担任保護司のもとに相談に行かなかつたのか、この点、保護司の少年に対する愛情ある人間性について不明な点がある。(2)本少年は家出をした日に通称「マル」(当時一六、七歳位)に出会い、同人に紹介されてNのアパートに寄宿して世話になり、同人に対する義理からその指示に従つて本件非行を敢行したもので、原決定認定のような無思慮即行的性格者ではない。(3)本少年の保護者父は、工員数十名を使用する紡績会社の社長で、指導力ある実業家であり、少年に対する精神的な保護能力は十分に認められる。(4)本少年を少年院に送致することは現在少年院の実情に照らし却つて少年を自暴自棄ならしめて社会適応能力を取得せしめるものではない。(5)本件非行の共犯者Yについても本少年と同様保護観察中の犯行であり、原裁判所が同人に再度、保護観察に付したのに比し、本少年に対する処分は重きに失する。以上の諸点よりして、原裁判所が本少年に対し、中等少年院送致の決定をなしたのは著しく不当な処分であると主張するのである。よつて更に記録を精査してみるに、本少年の本件非行の動機、態様、並びにその回数も二一回に及び、被害も多額にのぼり、その非行性、殊に本少年は同種非行により昭和三四年一月三〇日大阪家庭裁判所において保護観察処分に付せられたのにかかわらず、反省改悟することなく、同年九月中旬家出をなし、不良交友を続け、本件非行を繰り返したことなど、その他諸般の情状に徴すると所論の事由を考慮に容れても本少年を保護者に託し、補導せしめることによつては到底その更生を期待することはできない。従つて中等少年院送致の措置をとつた原決定は相当であつて、所論はこの点においても理由がない。

よつて少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山本武 判事 三木良雄 判事 古川実)

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